弓で射止めて

レポ、ドラマ感想、映画感想。

麦と絹のクロノスタシス

あけましておめでとうございます。
この映画を観た日から日記をつけ始めました。意外と続けれてます。


これは分かるの渋滞した映画。
どうしても観に行きたくて友人に頼んで花束みたいな恋をしたとヤクザと家族を連続で付き合ってもらった。1年ぶりの映画だった。まとめて見ると結構疲れた。
 
 そんなことはさておき、今回はタイトルでも分かるように"花束みたいな恋をした"についての話。ほぼ自分用の記事。DVD出たら一人鑑賞用に買おうかと検討してしまっている。ノベライズ買った。(ハマりすぎ)

 

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以下、ネタバレ

 

 

 

大衆的映画


これは大衆的映画ではない。
まず感じたことはこれだった。
人それぞれこの映画の感じ方は違うだろうが、大まかに2者に分かれていると感じた。
恋愛映画的視点カルチャー的視点。先日見た情報番組で聖地巡礼や年齢層幅広く支持されていると特集されていた。
一緒に行った友人は正直出てきた固有名詞はほぼ知らないが、恋愛映画としての視点では彼女にも刺さっていた。映画について話すと、彼女は恋人と別れたタイミングが恋人の就職後のすれ違いでその当時を思い出したとの事だった。この映画も大きなズレが生じるタイミングとしては就職後だったからだろう。だからよりリアルに感じていたのだ。
 ある意味、カルチャーを除いた上で観ても固有名詞とか曲や小説、分からない点はいくつかあるが、この映画は分かるの大渋滞だから、共感してしまう。学生恋愛、半同棲、同棲、社会人の恋愛を経験しているだけでも尚更共感が強い。特集でも70代男性が昔の同棲していた頃を思い出したと話していた。
付き合い始めはずっとどちらかがどうしても行かなければならない事がない限り一緒にいたい気持ちはめちゃくちゃ分かる。同棲始めたときの上がる気持ちもわかる。好きな人と好きなことしてずっと一緒にいれるんだもん。幸せだよね。そこが共感できるのだろう。私も共感した。


 映画という面で理想的な箇所も勿論挙げられる。例えば、学生で同棲していくつか家具を自宅から持ってきただろうが、リサイクルショップで集めた設定だとしても資金的な問題があるだろう。フリーターで猫を飼うのも苦しい。あの歳であの娯楽量は難しい。仕事終わり30分も冬に川沿い歩けない。ヤバい先輩がいない。好きなことして好きだけで生きたい人が人生の勝算を立ち読みする人にかつて互いに美しいと感じていた世界を押し付けられない。同じ日に別れる決意なんてできない。気が合うにしても、絹と麦みたいなここまでばっちりの人間に出会ったことがない。これはめちゃくちゃ理想の映画。理想と踏まえて見ないと心が死ぬ。
 しかし、セット撮影とは思えないリアルさや、先程申したように恋人と実際にしているであろう経験によりカルチャーを知らずとも共感して年代関係なく夢中になるのだろう。理想の中にリアルさがある。


普通に美術の技術がヤバいので見て下さい。パレットベッドやりたい。


『花束みたいな恋をした』ふたりの趣味があふれた部屋 | CINEmadori シネマドリ | 映画と間取りの素敵なつながり

 


別の友人が先日見に行ったと(私が彼にゴリ押ししていたので)報告があった。映画に出てくる固有名詞が全て分かる人だった。リアルすぎて心が痛い、カップルで観る映画じゃないと連絡が来た。
彼曰く、
"マジで個人的に押井守とか菊池成孔の粋な夜電波とか知ってたからうわ〜ッってなってしまった"


"あれガチでオタク映画だよ"


"サブカル殺し"


 彼はカルチャー的にも刺さっていた。麦と絹より2.3歳若いが、ドンピシャ世代で実在するカルチャーだったからこそ尚更リアルに見えるのだ。
押井守本人が出てきたシーンでは終電に間に合わなかった4人のうち社会人の友行と泰子はこの映画を見るとしたら恋愛映画的視点、麦と絹は友人同様だったのではないかと感じた。完全に机を挟んで壁ができていた。魔女の宅急便の実写でテンションが上がる2人と押井守を神と言い、押井守の認知を一般常識、世界水準だと話した2人。
分からない人にはAwesome City Clubでさえも映画上のグループではないかと思うだろう。天竺鼠cero、きのこ帝国など分からないと彼らの感じた感情には感情移入できない。"今村夏子のピクニックを読んでも何も感じない人なんだよ"と発言した時の思考も重みも分からない。
ファミレスでの別れ話のシーンもそうだ。
自分達と清原果耶と細田佳央太演じる若者2人を重ねて別れを決意できたのは米津玄師でもなく、King Gnuでもなかった。羊文学や長谷川白紙、崎山蒼志が注目されている昨今の音楽シーンを話す彼らだからこそ2人は重ね合わせることが出来た。


この映画の楽曲プレイリストを聴いて欲しい。
プレイリストには出てきた楽曲だが、GreeeenSEKAI NO OWARIは含まれていないことに少しゾッとした。

‎MaXXの「映画「花束みたいな恋をした」劇中登場曲+インスパイアソング」をApple Musicで


あとうる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー見てくれよな。

 


この映画は主人公と同世代だったり、趣味思考が麦と絹が運命と感じたように一致しない人はとことん切り捨てている。
先程述べた情報番組の特集はカルチャーに全く触れず、NONSTYLEの井上が共感ポイントを紹介していた。そして志らくと女性の出演者がそんな経験ないから分からないと納得せず井上をイジって終わっていた。
番組と井上は恋愛映画的視点での共感、志らくと女性出演者は映画を観ていないが詳細を聞いても共感できず切り捨てられている人の立位置であった。

 

 

 

一部しか共感出来ないものを共感できた2人

 


 あまり周囲が理解してくれない好きなものが一致した瞬間はその相手が自分の良き理解者であると思ってしまうし、魅力的な人間に見える。きっかけである押井守で興奮していたのはあの中で2人だけだったし、穂村弘長嶋有を大体読んでいて、映画の半券を栞にするタイプだし、天竺鼠の単独に行けなかったからここで会えた。天竺鼠のチケットがその日会うためのチケットだったのかもしれないと思ってしまう。カラオケに見えないカラオケでGreeeenのキセキを歌うヤンキーに見えない工夫をしたヤンキーの歌や知らない誰かが歌うSEKAI NO OWARIRPGを聞くよりカラオケに見えるカラオケでクロノスタシスを歌うのが良いのだ。
クロノスタシスって知ってる?って聞くと知らないと返事が来て350mlのアサヒビールを深夜に2人で飲めばこの夜の出来事の積み重ねでより運命だと思うだろう。

電車に揺られていたらと表現した麦のことを、ジャンケンのパーは紙なのに石に勝つわけないと考えている絹のことを、互いに好きになる。ここ数日の最低な朝帰りが最高の朝帰りになるのだ。3時間21分もあるガスタンク動画を"見たいです"なんて言ってしまうし、片や麦もミイラ展に一緒に行ってしまう。


一部の人間しか共感できない感情を2人で共有できたから。


 本棚の前にあったスケッチブックを見て"わたし、山音さんの絵好きです"と言うとすごく照れて髪を乾かしてくれた麦。何かが始まりそうでドライヤーの後にかき消された絹の心臓の音。絹に言われたセリフを頭の中で繰り返す麦。あの時間が永遠に続けば良いのにと思った2人。
ミイラ展デートでは服装がブルーのアウターにグレーのパーカー、JAXAの色違いのトートバッグで完全にペアルック。
んなもん完全に好きになる。

 

 

 

2人の好きなもの以外の一致

 


 しかし好きなものが一緒なだけが恋愛ではない。趣味以外の部分が麦と絹は一致していたのかという点が引っかかる。2人の花束のような恋はその名前の通りそう簡単には続かない。花束はいつかは枯れてしまうもの。好きなものが一緒というポイントで惹かれあった2人には趣味以外やその大部分がズレてくると好きなものが嫌いになってきてしまうだろう。
絹はガスタンクの映像は興味がなくて寝てしまうし、ミイラの写真を見て嬉しそうな絹とミイラで笑う絹へどう感想を言えば良いか分からない麦。その時点でズレはあったのだ。でもパーティの盛り上がりの最中だから冷めることはない。好きなことを共有できているし幸せだから。

 ズレのきっかけとしてシーンで出ていたのは静岡での海岸デートだ。
絹が愛読していた"はじまりはおわりのはじまり"と同じテーマを挙げて書いていたブログ、恋愛生存率の筆者が自ら命を絶ったという記事を読んでから絹の心に小さな穴が開いた。ふとした瞬間に思い出していると麦の姿がいない。不安になって大声で叫んでいると暢気な声でしらす丼を買ってきて褒めて欲しいと言わんばかりの麦が戻ってきた。絹は怒っていたが麦は笑って反省していないシーン。
これは彼らの趣味以外の部分が一致していない事が如実に現れていたように感じた。自分達は恋愛というパーティの盛り上がりの中にいると考えていた絹だったが、同棲後就職を気に徐々にズレていく。


 麦の先輩である海人と彼女の菜那がお揃いのタトゥーを入れている事について電車で話していた時麦は絹を泣かせたりしないと心で誓っていたが、絹の就活で初めて涙を見せた。それがきっかけで同棲を決めるシーンでは物件もまた予算は少ないが2人の好きなことが優先され理想には遠いが2人のロマンが勝った。尚更楽しいだろう。まだ彼らはパーティの盛りあがりの中である。

 

 

 

恋愛の盛り上がりの最中の崩壊

 


2016年6月3日、悪行を2人で働いた日。平日は餃子とビールだ。YouTubeに映るAwesomeのPORINは金髪になり人気者になっていた。バロンも大人の黒猫になってきていた。しかし2人はフリーターのままであった。ここから徐々に盛り上がりは終わっていく。
 
 麦にとって苦しい出来事が積み重なっていく。麦のイラストの仕事は順調とは言えず、ワンカット1000円の契約が"3カット1000円ですー"とだけ返ってくるLINE。それを1人で抱え込む麦。価値観が広告代理店の絹の両親がやってきて普通に働いて欲しいと言われる。絹の両親の言う"普通に働く"はフリーターではなく正社員だ。その後麦の父親も上京し、長岡に帰って花火をしろと話す。イラストを見せても興味もなく仕送りの5万円は全て花火へ回った。帰り道のコーヒーがスタバのコーヒーからコンビニコーヒーに変わり、少しずつ麦が好きなことをするには厳しい環境になってきていた。
 海人の仕事の手伝いをした時、"協調性とか社会性は才能の敵だから"とかっこよさげなセリフを海人は言ったが麦にはカッコよくなんて見えなかった。彼女を銀座で働かせてクリエイターとしての生き様を語るなんて。
 トドメには"ワンカット1kで"とLINE。1kの表現もなかなか腹立たしいし、契約は1000円だったと言及すると"いらすとや使うんで大丈夫です。おつかれさまでした。"
麦は才能を協調性、社会性から守ったが才能がある訳ではなかったのだ。この出来事の積み重なりが好きなことをするだけでは無理という現実が麦に迫り就職する決断をした。麦にとってお金がないと一緒にはいられないと言う焦りだろう。仕事でもお金の話、親からも仕送りがなくなりQOLが下がる一方。
しかし絹にとってバイトしながら絵を描くことと仕事をしながら絵を描くのは違うと感じていた。このままずっと"こういう感じ"が続くと思っていた絹とのすれ違いが始まる。

絹は簿記の資格を取り先に内定を取った。麦はその焦りからとにかくやりたい事は置いといてなんのことだかさっぱりわからない仕事に就職した。
麦が内定決定の翌日、絹にサラリと言った"これでもう、絹ちゃんとずっと一緒にいられる"に絹はひっかかった。好きなことをして"こういう感じ"が続いたとしてもずっと一緒にいられると思っていた絹にとっては違和感でしかなかった。"絹ちゃんとの現状維持が目標"である麦。維持するために就職したのか?と絹は感じただろう。そんなことしなくても私たちは好きなんだから一緒にいれるのに。
この時点で既に2人でいるために働く麦と好きなことをしてフリーターでもこれまでのように一緒に過ごすとではかなり違ってくる。

 

 

 

就職後の2人

 


そして麦が就職をしてから帰りが遅くなる日もしばしば。早く帰れる日は余裕ができコンビニコーヒーからスタバのコーヒーに戻った。2人で絶対見に行こうと言っていた映画も親睦会で行けない。菜那からの飲み会の誘いも麦は仕事。麦は友達には会う暇はないし、絵も描く暇なんてない。好きなことより仕事なのだ。
絹が約束していた舞台の日付もタイトルも何も覚えていなくてドタキャンしようとしている麦に怒らない絹。でも絹は大丈夫なんかじゃなかった。相手を思いやるような言葉を並べて自分達の主張が顔にも声にも出ている矛盾した喧嘩。
君がそうしたいなら"じゃあ"そうするよと思いやる麦と仕方なくの"じゃあ"と感じる絹。"じゃあ"の捉え方もそれぞれ違うのである。お揃いのジャックパーセルが出ていた玄関の頃とはもう違うのだ。仕事用の黒い革靴が並んでいるのだ。
絹がゼルダをしても麦は一緒にやる訳ではなくイヤホンをしてパソコンに没頭したり、クリスマスは映画を見に行ったが麦は寝息を立てる。本屋では絹は"たべるのがおそい"の最新号を麦に見せようとするが、麦は"人生の勝算"を立ち読みしていた。その絹にとって最悪なクリスマスの夜、眠る前に麦は結婚について質問した。絹はこんな話をしたい気分でもないのに結婚の話を出す麦の神経が理解できなかった。
麦は時間に余裕があって好きなことをできる絹に対していつまで学生気分でいるんだろう、絹からするとセックスしていない恋人に結婚の話を持ち出すってどういう感じなんだろうと。
好きなことして付き合いたての頃のように好きな音楽を聴いて小説や漫画を読んでゲームして変わらない絹に対しての考えはとても個人的にも刺さった。

髪型もずっと変わらない絹と髪の毛をバッサリ切って変わった麦。見た目にも彼らの違いが現れているように思えた。
彼らはお互い一緒にいたいという気持ちはあるが考え方が違うのである。

好きなパン屋が無くなった時もそう。麦は駅前のパン屋で買えば良いじゃんとLINE。絹にとってはそういう事ではない。好きだったパン屋がなくなって寂しいという話を共有したかった。寂しいねと返事してくれるだけで良かったのだ。お互い分かって欲しいのに分かり合えない。
悲しいことに再開して付き合っていた頃を思い出していたシーンで、麦はこのやりとりを覚えてなかった。2020年に絹と再会した日の夜、2人で行ったパン屋があった気がする。あの焼きそばパンまた食べたいな。その後検索すると閉店したと絹から連絡が来ていたことを思い出していたのだ。

 

 

 

2人の大きなすれ違い

 


 麦と絹の考え方の違いが如実に出ていたのが絹の転職を知ったシーン。
自分は好きなことをしないで絹と一緒にいるために仕事を選んだ麦。絹は資格を取ったのに今の仕事は向いていないから好きなことを仕事にできるイベント会社に転職しようとしている。麦は転職について何も聞いていないことに驚き、"ごめん"という言葉で不信感に変わった。既に辞めることを職場に伝えており、好きなことを活かせると言う絹に"遊びじゃん"と鼻で笑う麦。麦の不信感はさらに怒りは変わった。
恋人に転職する事も言わず、夢を諦めて一緒にいるために働いている麦からしたら折角資格を取って働いていたのに向いてないからと言って今後どうなるかもわからないイベント会社に転職するなんて不信感も湧くし怒りに変わっても仕方がない。
絹が圧迫面接で悲しんでいたときに言った"今村夏子のピクニックを読んでも何も感じない人なんだよ"を絹に丸々返されたが、同じセリフでも状況があまりにも違う。麦はゴールデンカムイも途中で読まなくなったし、宝石の国の話なんて覚えていない。パズドラしかやる気が出ない。けどその気持ちはゴールデンカムイも最新刊まで読んで好きなことをしている絹には分からないだろうし分かってくれとは思わない。麦にとって分かって欲しいのは別のことなのだ。生活のために麦は働いているのだと、絹へ批判をして好きなことをして何が悪いとか、2人で暮らしているのは好きだからじゃなかったのかと絹も考える。
麦は一緒にいたいから嫌な事でもする。生活のために稼がなければ。
絹は好きなことして2人で楽しく生きたかった。お金の問題じゃない。
一緒にいるのに理由が違っている2人。好きでいるのにお金ばっかりになっているのが辛い絹。


"じゃあ結婚しようよ!"


このじゃあは前の喧嘩と同じで2人の捉え方が違うし、プロポーズにしては麦は怒鳴っていたのだ。そりゃこんなの理想のプロポーズでもない。鼻で笑い返しても仕方ない。

 

 

 

互いの感情の共有ができない

 


完全に互いに干渉しなくなる出来事が起きた。海人の通夜の後だ。
麦の海人の印象は酒を飲むとみんなで海に行こうと言い出す人。
絹の海人の印象は正反対で酒を飲むとすぐに女の子を口説こうとする人で彼女にも暴力を振るった。
麦が菜那の飲み会に行っていたら印象は変わっていたかもしれない。
正反対の印象だからこそ最初の頃のように同じように悲しむことなんて出来なかったのだ。麦は一晩中海人の話をしたかったのに絹は同じように悲しめず眠り、そんな自分が嫌になり翌朝打ち明けようとしたが無視された。
麦は"なんかもうどうでもよかった"
絹はその態度に"なんかもうどうでもよくなった"
完全に2人の気持ちは無くなってしまったのだ。同じ家でそれぞれが一人暮らしをしている状態なんて一緒にいる意味も無いだろう。
2人の人生はずっと一緒だと思っていたが離れ始めていた。Awesome City Clubと一緒に仕事をするようになった絹とYouTubeで画面越しでAwesome City Clubを見る麦。付き合おうと決めた日に彼らの歌を別々のイヤホンで聴いていると"君ら、音楽、好きじゃないな"とおじさんに指摘されていたように2人の人生もLとRに分かれ始めている。

 

 

 

イヤホンのLとR

 


友人の祐弥と彩乃の結婚式に招待された麦と絹は式の後階段に並んで待っていたが2人は階段を挟んで離れて立っていた。それぞれが別れることを決意していたのだ。
2人が友人に話していた会話はまるでイヤホンから流れるステレオサウンドだった。イヤホンのLとRは麦と絹なのだ。

 


絹ちゃんと別れようと思ってる
麦くんと別れようと思ってて
今もう全然会話もなくてさ
喧嘩にもならないんだよね
感情が湧かないの
でもどうやって別れたら良いかわかんなくて
別れようで済むのって交際半年以内でしょ
うち、五年目突入でしょ。ほら、スマホの解約だって
どのページに行ったら解約できるかわからなく出来てるでしょ。引き止めてくるでしょ。
別れたくないよ、今解約すると損しますよって
とにかく今日、この結婚式が終わったら
別れるから
""でもね""
最後だからこそ
最後くらいは
笑顔で
笑ってさ
じゃあねって言おうと思ってるんだよ
幸せになってねって言いたいんだよね

 


2人の会話は一つの話として成立しているからあのシーンは交互に流しても成立した。
披露宴後、観覧車に乗って2人は出会った頃の自分達の気持ちを正直に言って笑って話してNIGHT TOWNを歌って久しぶりに楽しい時間を過ごした。

 

絹の"幸せになってね"はカルテットでいう幹生の真紀と別れる前の夕食の食事のシーンのセリフと同じである。絹は結婚しても恋愛感情がある2人でいたかった。幹生もそうなのである。

 

 

2015年の麦と絹

 


別れ話をしなければならない2人は出会った頃に行っていたファミレスに入った。数時間前の自分達はとても笑っていて楽しかった。麦が昔の楽しかった頃の写真を見せていると絹は"楽しかったね"と漏らす。過去形。もう2人ではあの頃のような気持ちにはなれない。
麦は昔の楽しかった事を思い出して想いが溢れて別れを決意したのにも関わらずその決断が揺らぐ。この4年間は大きい。
サバサバした調子で麦との楽しかったことだけを思い出に大事にしまっておくと言っておきながらこんな別れは違うような気もしている絹。
2人とも式場で言っていたが別れるには惜しい。だって、運命だと思ったのだから。こんなにピッタリ合う人はいなかったのだから。


別れないで結婚したい気持ちが麦の口から出た。
"恋愛感情がなくなったって気持ちが変わってからも嫌なとこ目瞑りながら暮らしてる人たちいるよ。"
これはもし自分が言われてもめちゃくちゃ嫌すぎる。けど麦はこの言葉を言うしかなかっただろう。本音を伝えたかったから。
ハードル下げてこんなもんなのかなって思いながら暮らしたくない絹。やっぱり少しぐらいでも夢を見たいのだ。前のプロポーズも絹の理想でもなんでもないのにこんなのも理想じゃない。
麦の離れたくない気持ちは増していく。お互いの気持ちが冷めたから、家族になったら上手くいく。いろいろあの二人もあったけど空気みたいな存在になったねって。
麦はリアルな結婚、リアルな家族、リアルな幸せを力説した。理想ばかりでは上手くいかない。分かっている。こんなに訴えてくれる麦の言葉に今なら乗れると思っただろう。"そうだね、結婚だったら、家族だったら..."と考え直しかけていたのたが、その考えも遮られた。

 自分達がいつも座っていた席で同じ色のジャックパーセルを履いて、羊文学や長谷川白紙、崎山蒼志の話をする若者2人。彼らは2015年の麦と絹だった。何時間も本や漫画、お芝居、お笑い、音楽、ゲームの話をして2人でいることが幸せだったあの時。互いに読んでいる本を居酒屋でやっていたように、表彰状の授与のように文庫本を差し出しあっていた。あの2人は今咲いている花だった。しかし花はいつか枯れてしまうのだ。自分達ではないのだと現実を突きつけられると別れることを選ぶことになるだろう。


 序盤に話したが、この決断ができたのは若い2人がジャックパーセルを履いて羊文学や長谷川白紙の話をして小説を交換しあっていたから。米津玄師やKingGnuでは彼らは決断することはできなかったかもしれない。2019年版の麦と絹なのだ。
絹が最悪な気分な時に考えるブラジルがワールドカップでドイツに7点取られた時、ブラジルのキャプテンのインタビューで"我々のこれまでの道のりは美しかった。あと一歩だった。"と話した。
これはある意味別れた麦と絹にとっていい言葉だったのだろう。あと一歩だったのだが道のりが美しかったから良いんだよ。

 

2020年に彼らは再会する。まるで違うタイプの恋人を連れて。彼らは運命だった恋とは違い趣味以外が合う人を選んだのかもしれない。

 

 

 

理想の花束みたいな恋

 


お互い家に帰って再開に思いを馳せることができるのは4年間の恋が美しい花束だったから。
閉店したパン屋の付近をストリートビュー見ていると美しい花だった頃の2人が川沿いを歩いていた。仲良く手を繋ぎ顔を見合わせている。画像の中の麦と絹は永遠に静止したままなのだ。
ストリートビューは絹と麦のクロノスタシスだった。
美しい花が咲いていたことは忘れない。絹が言ったように楽しかった思い出は大事にしまっておけるのだ。彼らの4年間の楽しかった思い出が集まって花束になっている。理想だからこそ綺麗な花束のままでとっておけるのだ。スクリーン上だから美しい最後で終われるのだ。

 

 

 

坂本裕二

 

 

坂本裕二の脚本は東京ラブストーリーもいつ恋もカルテットもはな恋も全てテーマは同じで、一度発生した恋は全て等しく尊いし、大切な思い出として叶わない恋だろうが何だろうが全てに意味があるから好きなんだよ

 

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クロノスタシス

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  • きのこ帝国
  • ロック
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もう一回カルテット見よう。カルテットコンビ怖いよ。

 

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ちなみに私は男と焼肉より天竺鼠に意地でも行く。


天竺鼠【コント】飛車と角行